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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)2419号 判決 1958年10月10日

被告人 石川猛夫

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。

理由

弁護人溝淵亀澄の上告趣意について

原判決は、判示事実を認定した証拠として一、E子の司法警察職員に対する供述調書、二、F子の司法警察職員に対する供述調書、三、被告人の司法警察職員、検察官に対する各供述調書、四、E子の身上に関する宮崎県○○○郡××村役場の回答書を掲げているが、右一、二の各供述調書は、検察官が、第一審公判における証人E子方及び同F子の各供述の証明力を争うために証拠として刑訴三二八条にもとづき提出したものであるから、原判決がこれを犯罪事実認定の資料に供したことは違法である。(昭和二七年(あ)二七一九号同二八年二月一七日第三小法廷決定、判例集七巻二号二三七頁参照)。

そして、右の証拠を除外すると、原判決は被告人の自白を唯一の証拠として犯罪事実を認定した違法があることに帰するから、右各違法は判決に影響を及ぼすべきものであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。

よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文により裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

弁護人溝淵亀澄の上告趣意

右児童福祉法違反被告事件について上告理由を提出致します。

一、原判決は弁護人の控訴理由中第一審判決が被告人の自白を唯一の証拠として断罪した違法があるとの点に関し「原判決挙示の証拠の内容について検討すると被告人の検察官に対する供述調書にはE子は下女中として働いていたが情夫が遊びに来て肉体関係をしていた様であり、E子自ら上女中として使つてくれと申すので私もどうせ男と関係するものならと思つて店に来てから二、三日目に客をとらせることにした、E子が居た間に約十回位客をとり其の身代の六分はチャンと私の方で貰つているとの記載があり同供述は遊客を具体的に特定はしていない、けれどもE子の身代即ち売淫の対価の内六分を被告人において収得している事を認めているのであるなお仮りにKが所論のようにE子の情夫であつても同人が支払つた金員が身代でなく宿泊料であつたとしても原審証人E子の供述によると同人がE子の許に宿泊したのは五、六回にすぎずその余のE子への宿泊客はいわゆる遊客として遇せられ被告人においてその身代の六分を収得したものと認めるの外なく被告人の該供述調書によると被告人がE子に対価を得て淫行させた事実はこれを動かすことはできない、しかしながら被告人の右自白に対して原判決がその余の証拠として揚げた原審証人E子、G子、F子、H、I、Jの各供述の内容について調査したが被告人が原判示のように約十名位の遊客と対価を得てE子に淫行させた事実はこれを認むることができないので結局原判決は自白を唯一の証拠として事実を認定したものというの外なくこの点において論旨は理由があり原判決は破毀を免れない」とし又検察官の量刑不当の控訴理由をも採用して原判決を破毀し被告人に対し第一審宣告の罰金八千円を変更し懲役六月三年間執行猶予の判決を言渡したのである。

然して原審は右有罪の証拠として、E子の司法警察員に対する供述調書、F子の司法警察員に対する供述調書、被告人の司法警察員、検察官に対する供述調書、E子の身上に関する宮崎県○○○郡××村役場の回答書を挙示したのである。

二、ところで右挙示の証拠中、被告人の司法警察員、検察官に対する各供述調書、E子の身上回答書は免も角としてE子及びF子の司法警察員に対する各供述調書を有罪認定の証拠として採用したのは判決に影響を及ぼすべき明白な法令違反がある。

第一審公判において検察官はE子及びF子の司法警察員に対する各供述調書を刑事訴訟法第三百二十八条の証拠力を争う証拠として提出したものである。(第二回公判調書添附の証拠の標目立証の趣旨欄参照)

斯る証拠が犯罪事実認定の証拠に供し得ないことは刑事訴訟法の解釈上当然であつて学説は勿論判例も一致するところである。(昭和二十七年(あ)第二七一九号昭和二十八年二月十七日最高裁判所第三小法廷判決参照)

三、想うに原審裁判官は右E子及びF子の司法警察官に対する各供述調書が記録に編綴されているので、不用意に通常の手続による証拠書類と誤認し之等供述調書を証拠にとつたものと思料さるるが斯る証拠によつた犯罪事実を認定し然も第一審の宣告刑を変更して体刑に加重したことは原判決が認定したように被告人の自白(完全な自白ともいえない)が唯一の証拠である本件においては被告人は当然無罪たるべきものであるから原審判決を破毀しなければ著しく正義に反する場合であることは勿論である。

よつて原判決を破毀し被告人無罪の御判決を仰ぐ次第である。

以上

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